おじいさんと339 後編
339です。前回の続き。sasakiyu2.hatenablog.com
2度目の診察の時に、先生(以下、おじいさん)は、339の腕にフィットするギブスっぽいものを手作りしてくれました。
そして患部(右ヒジ)には、前回同様、濡れたガーゼをあて、そのギブスごと包帯でくるくる巻いてくれました。
「湿布はしないんですか?」
なんて、口が裂けても言いません。
339は空気の読める子です。
おじいさん「よし。終わり。で、339は、大学まで電車だろ?駅まではどうやって行くんだ?」
と、おじいさんとの時間は、治療よりも、その後のトークの方が長め。
339「自転車で行ってます…あっ、もちろん今は怪我してるんで、バスで行ってますよ(ホントは自転車(片手運転)で行ってるけど)」
おじいさん「339の家からだとバス停はあそこか?」
339「いや、その隣のバス停です。…あっ、でも、そのもう一つ隣のバス停から乗れば10円安くなるので、そこまで歩きます」
おじいさん「おぉ!さすが『経済学部』だな!わっはっは!!」
と、やたらと339の個人情報に詳しいおじいさんですが、
それは、初日の『不毛な一問一答』でリサーチ済みだから。
339「くっそう、やたらとオレのパーソナルデータをいじってくるなぁ。オレもじーさんデータを収集してやろう」
と思い、おじいさんの机の上をみたら、若い女性の写真、というかチラシのようなものを発見。
339「誰だアレ?まいーや、今度アレでじーさんをいじってやろう」
と決意。
それから何度病院に通ったか覚えていませんが、結構な頻度で通いました。
おじいさんが「来い」と言うから、その通りに行っただけですが、
どうも339は、おじいさんに気に入られた様子。
ある日は…
おじいさん「よし、次は(カレンダーを見ながら)、××日に来いよ」
339「えーっと(同じカレンダーを見ながら)、はい、××日ですね。わかりました」
おじいさん「…なぁ…339…」
339「は?」
おじいさん「他の患者さんはさぁ、オレが『××日に来て下さい』て言うとさぁ、『あっ水曜日ですね?』とか言うんだよぉ」
339「はぁ」
おじいさん「何でだと思う?オレが『××日』って言ってるんだからさぁ、『水曜日ですね?』なんて聞くことないだろ?」
339「そうか?(心の声)」
おじいさん「なぁ、何でだと思う?なぁ、なぁ339ぃ(スリスリ)」
339「うっとぉしいなぁ!スリスリ」 ← 注) 実際、スリスリはされてません
339「たぶん曜日の方が覚えやすいんですよ、その人は」 ← テキトーな答え
別の日には…
おじいさん「339は就職先は決まってるのか?」
339「いえ、まだです」
おじいさん「じゃあさぁ、お前、政治家になって、この病院面倒見てくれよぉ、なぁ、なぁ339ぃ(スリスリ)」
339「気持ち悪ぃなぁ!スリスリ」 ← 注) 実際、スリスリはされてません
339「政治家なんてなりませんよ、ていうか、なれませんよ」
おじいさん「いやいや、政治家になるにはな、まず、秘書になるんだよ、それからな…」
と、こんな感じでした。
きっと、若者と話すのが楽しかったんでしょう。
(他の患者さんは年配の方が多かったと思うので)
やがて、339のヒジも治ってきて、そろそろおじいさんと過ごす日々も、終わりが近づいてきました。
339「さて、そろそろ、じーさんいじったろか」
てことで、いつもの雑談中に、おじいさんの机を指差し、
339,「先生、このチラシの女性って…はっ!」
顔を近づけてそのチラシをよく見てみたら、
なんと、アクシアのカセットテープの広告でした。
↑こんなヤツ
339「先生、コレ、斉藤由貴ですね…」
おじいさん「おっ?!そうだ!お前知ってるのか?」 ← 知っとるわ
おじいさん「嫁さんにするなら、こういう人にしろよ!」
339「あぁ、はい、綺麗ですよね。(古っいチラシ持ってんな)」
てことで、最後も、斉藤由貴さんの古すぎるチラシに度肝を抜かれてしまい、結局、おじいさんには負けっぱなしでした。
月日は流れ、339も一応就職し、30半ばとなった、とある日。
そのおじいさんの病院:N整形外科の前を通ったら、
既に病院は無くなっていました…。
339「あっ、病院無くなってる…ま、そりゃそうだよな。父ちゃんが若い頃からおじいちゃんだった訳だし…」
339「先生、あの時はありがとね(ポロリ)」
と、空を見上げて、ポロリしました。 ← 勝手に死んだことにしている
さらに月日が流れ、おじいさんに右ヒジを治してもらったあの時から20年以上経ちました。
そんな今年の、つい先日、
奥様の家族やイトコ達と、339邸で飲み会をした時に、
奥様のママがこんなことを言いました。
ママ「駅前の、N整形外科って、何年か前に、O小学校の前から移転したんだよね」
339「えっ?!」
あの病院、閉鎖じゃなくて、移転したのか?
てことは、おじいさんもまだ?
いやいや、そんなことはないだろう。
そうだ、そう言えば、駅前のN整形外科って、去年奥さん、行ってるじゃん。
ちょっと奥さんに聞いてみよっ!
339「ねえねえ、奥さん、奥さん、あの病院の先生ってさぁ…」
奥さん「すっごい、もう何歳かわかんないくらいのおじいさん!あと、すっごい、偏屈!きっと、その人なんじゃない?」
339「なぬーっ?」
あの、おじいさん、何十年じーさんやってんでしょうか?
不死身でしょうか?
そして今でも『斉藤由貴・ラブ』なのでしょうか?
確認しに行きたいけど…やめとこ。